ピロリ菌感染の現状 日本と世界の違い

「ピロリ菌に感染している人は、以前より減っている」と聞いたことはありませんか。日本や韓国では、実際に感染率の低下が報告されています。一方、世界には今も感染率が高い地域があり、ピロリ菌感染症は決して過去の病気ではありません。

今回は、日本と世界の研究から、ピロリ菌感染の現状と、私たちが気をつけたいことをご紹介します。

ピロリ菌は、主に乳幼児期に感染し、胃の中で長く生き続ける細菌です。日本では衛生環境の改善などを背景に、若い世代ほど感染率が低くなっています。親世代の感染率が下がってきたことも、子どもへの感染が減る背景と考えられています。[1]

日本の170,752人のデータをまとめた2017年の研究では、生まれた年ごとの推定感染率は、1950年生まれ59.1%、1970年生まれ34.9%、1990年生まれ15.6%、2000年生まれ6.6%でした。[2] これは過去の複数の調査から算出した推定値であり、現在の各年代の感染率をそのまま示すものではありませんが、若い出生世代ほど感染率が低いことが分かります。

神奈川県内の具体的なデータとして、横須賀市の中学2年生を対象にした研究があります。2019~2021年度に検査を受けた6,270人のうち、ピロリ菌感染が確認された割合は1.2%でした。尿中抗体検査を一次検査とし、陽性者に尿素呼気試験を行って感染を確認しています。[7] この数字は検診参加者での結果であり、神奈川県全体の中学生の感染率を示すものではありません。川崎市医師会でも中学生を対象に同様の研究がなされ、同様の結果がでております。

韓国の全国多施設調査では、除菌歴や胃の症状などがない16歳以上の方のピロリ菌抗体陽性率が、1998年の66.9%から、2016~2017年には43.9%へ低下しました。[3]

これは過去の調査であり、現在の韓国全体の感染率をそのまま示す数字ではありません。しかし、日本と同様に、韓国でも長期的な低下が進んできたことが分かります。

世界全体でも感染率は低下傾向です。2023年に発表された大規模な研究では、世界の推定感染率は1980~1990年の58.2%から、2011~2022年には43.1%へ低下していました。[4]

一方、東アフリカの研究をまとめたメタ解析では、感染率は約51%と推定されています。[5] アフリカをひとまとめにはできず、国や地域による差は大きいものの、今も多くの人が感染していることが分かります。

ここで大切なのは、「アフリカで感染が増えている」とは限らない点です。アフリカでも感染率の低下は報告されていますが、依然として高い水準にある地域が多い、というのが適切な理解です。[4,5]

なお、これらの研究は調査時期、対象者の年齢、検査方法などが異なります。数字だけを並べて、国や地域の優劣を判断することはできません。

社会全体の感染率が下がることと、ご自身にピロリ菌がいないことは別の話です。ピロリ菌に感染していても、通常は自覚症状がありません。胃が痛くない、食欲があるという理由だけでは、感染の有無は判断できません。[1]特に唾液を介して家族内感染をするため、両親や祖父母等親族に胃がんの方や、ピロリ菌除菌歴のある方は、20歳を超えたら検査する事をおすすめします。(他コラム参照)

ピロリ菌は慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどに関係します。これまで検査を受けたことがない方や、健診で胃炎を指摘された方は、検査が必要かどうかをヘリコバクター学会認定医師に相談しましょう。[1]

ピロリ菌の感染が確認された場合は、胃の状態などを確認し、除菌治療を検討します。除菌は胃がんのリスクを下げるために役立ちますが、薬を飲み終えただけでは、菌が消えたかどうかは分かりません。治療後には、除菌に成功したことを確認する検査が必要です。[1]

また、除菌に成功しても、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。除菌後も胃の状態に応じて、定期的な胃カメラを続けることが大切です。[1,6]

日本で感染率が下がっている今だからこそ、まだ感染に気づいていない方を適切な検査と治療につなげることが重要です。「自分は調べたことがあっただろうか」「以前除菌したけれど、その後の検査を受けていない」と気になった方は、ご相談ください。

  1. 日本ヘリコバクター学会.ピロリ菌に関するQ&A
  2. Wang C, et al. Changing trends in the prevalence of H. pylori infection in Japan (1908–2003): a systematic review and meta-regression analysis of 170,752 individuals. Scientific Reports. 2017.
  3. Trends in the seroprevalence of Helicobacter pylori infection and its putative eradication rate over 18 years in Korea: A cross-sectional nationwide multicenter study. PLoS One. 2018.
  4. Li Y, et al. Global prevalence of Helicobacter pylori infection between 1980 and 2022: a systematic review and meta-analysis. Lancet Gastroenterology & Hepatology. 2023.
  5. Mnichil Z, et al. Prevalence and associated risk factors of Helicobacter pylori infection in East Africa: a systematic review and meta-analysis. Brazilian Journal of Microbiology. 2024.
  6. 日本消化器内視鏡学会.ピロリ菌を除菌しましたが、その後胃カメラ検査を受ける必要がありますか

著者:星岡 賢英(ほしおか よしひで)/中原小杉元住吉ほしおか内科・消化器・内視鏡クリニック 院長

聖マリアンナ医科大学医学部卒業。総合診療・消化器内科での診療経験を経て、2020年に開院。内科診療に加え、胃・大腸内視鏡検査、ピロリ菌感染症、肝疾患の診療に取り組んでいます。

・日本内科学会 総合内科専門医
・日本消化器病学会 消化器病専門医
・日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
・日本肝臓学会 肝臓専門医
・日本ヘリコバクター学会 H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医