健診で「慢性胃炎・萎縮性胃炎」と言われたら?
症状のある胃炎と、胃カメラで見つかる胃炎の違い
「胃は痛くないのに、健診で慢性胃炎と書かれていた」
「毎年、萎縮性胃炎と言われるけれど、何をすればよいの?」
「胃もたれが続いている。これも慢性胃炎?」
同じ「胃炎」という言葉でも、指している内容は同じとは限りません。
まず結論からお伝えします。慢性胃炎と書かれているだけで、がんという意味ではありません。一方で、症状がなくても、ピロリ菌の確認や胃がんリスクに応じた経過観察が必要な場合があります。
大切なのは、胃の不調・粘膜の変化・将来のリスクを分けて考えることです。
1.「胃炎」には、異なる意味で使われてきた言葉があります
症状を表すために使われてきた「慢性胃炎」
以前は、胃痛や胃もたれが続く状態を、十分な原因の区別をせず「慢性胃炎」と呼ぶことがありました。
しかし、不快な症状が続くことと、胃の粘膜に炎症が続いていることは同じではありません。
必要な評価を行っても症状を説明する病気が見つからない場合には、機能性ディスペプシアという病気を考えます。胃の動きや刺激の感じ方などが関係し、「気のせい」ではありません。
胃カメラで見える変化としての「胃炎」
内視鏡では、胃粘膜の赤み、浅い傷である「びらん」、萎縮などを観察します。
健診結果に記載される「胃炎」は、こうした見た目の所見を示していることがあります。ただし、赤く見えることが、そのまま顕微鏡で確認される炎症の強さを意味するわけではありません。
組織を顕微鏡で調べて診断する「胃炎」
必要に応じて採取した組織から、炎症細胞や胃腺の減少などを評価します。すべての胃炎で生検が必要という意味ではありません。
このように、症状・内視鏡所見・組織の診断は、関連はあっても一対一には対応しません。 萎縮性胃炎があっても無症状の方がいる一方、粘膜の変化が軽くても強い胃もたれを感じる方がいます。[1]
2.「胃炎」という記載だけでは、治療の必要性は決まりません
胃炎という言葉は広く使われてきましたが、すべてを一つの病気の「軽い段階・重い段階」として並べることはできません。
代表的な所見と、胃炎と区別すべき潰瘍について整理します。
①萎縮性胃炎
胃の粘膜にある「胃腺」が減った状態です。主な原因はピロリ菌の長期感染で、内視鏡では粘膜の下の血管が透けたり、ひだが減ったりします。
萎縮の程度や範囲、腸上皮化生の有無などは、胃がんリスクの評価に関わります。ただし、萎縮があるから必ず胃がんになるわけではありません。[2]
②ピロリ菌感染に伴う胃炎
萎縮が目立つかどうかだけでなく、現在ピロリ菌に感染しているかを確認することが重要です。
感染が確認された場合には、除菌治療を検討します。「萎縮が軽いから治療の対象ではない」ということではありません。[2]
③表層性胃炎と記載される所見
健診などでは、ひだに沿った赤みである「稜線状発赤」を、表層性胃炎と表現することがあります。
「胃炎」と聞くと、胃が荒れているように感じるかもしれません。しかし、この所見はピロリ菌に感染していない胃に多くみられます。 胃全体に萎縮などがないことも確認できれば、むしろ、ピロリ菌による慢性的な傷みのない、いわゆる「きれいな胃」である可能性を示す所見です。
この赤み自体が胃がんリスクの高さを意味するわけではなく、通常、胃痛や胃もたれを説明する所見でもありません。 ほかに問題がなければ、この所見に対する薬物治療は通常必要なく、経過観察となります。症状がある場合は、赤みのせいと決めつけず、別に原因を考えます。
ただし、「表層性胃炎」という名称は使われ方に幅があるため、名前だけで判断せず、実際の所見を確認することが大切です。[3,4]
④たこいぼびらん(隆起型びらん)
小さな盛り上がりの中心に浅いくぼみ・傷がある所見で、胃の出口付近にみられます。
こちらもピロリ菌に感染していない方に多くみられる所見です。典型的な形で、症状や出血などがなければ、治療を行わず経過観察となることが多くあります。
これ自体を、萎縮性胃炎と同じ胃がんリスクの所見として扱うものではありません。 「びらん」という名前だけで、重い胃炎や、がんにつながる病変と考える必要はありません。
ただし、ピロリ菌に感染している方にもみられるため、胃全体の状態も確認します。また、形が不整など典型的でない場合には、必要に応じて生検を行い、別の病変との区別をします。[3,5]
⑤びらん・胃潰瘍
びらんは胃粘膜の浅い傷、潰瘍はそれより深い傷です。
胃潰瘍は、単に「慢性胃炎の一種」とまとめず、別の病変として診断・治療します。 ピロリ菌や痛み止めなど原因を調べ、症状、出血、病変の状態に応じて対応します。
びらんや潰瘍があることと、将来の胃がんリスクが高いことは同じではありません。また、胃潰瘍では、がんによる潰瘍との区別も重要です。[5,6]
3.治療には、異なる目的があります
胃の診療では、次の目的を分けて考えます。
① 胃痛や胃もたれを改善する
症状の原因を評価し、生活面の調整や薬物治療を検討します。
② びらんや潰瘍を治療する
原因への対応、傷を治す治療、出血などへの対応を行います。
③ 将来の胃がんリスクに対応する
ピロリ菌の除菌や、胃粘膜の状態に応じた経過観察を行います。
症状を抑える薬を飲んで楽になったことと、胃がんリスクへの対応が済んだことは別です。
逆に、軽い赤みがあるだけで、全員が薬を飲み続ける必要があるわけでもありません。
4.萎縮性胃炎と言われたら、ピロリ菌の検査結果と除菌歴を確認しましょう
胃カメラの見た目は感染を推測する手がかりになりますが、感染の判定には、呼気・便・血液・組織を用いた検査などを使って判断します。
検査方法や服薬の影響によっては、感染していても陰性になることがあります。検査前の薬の調整は、自己判断で行わず医師に確認してください。[2]
また、「ピロリ菌陰性」と言われても、過去に感染していた方と、一度も感染したことがない方では背景が異なります。 除菌歴や内視鏡所見を併せて確認することが大切です。[3]
なお、萎縮の原因がすべてピロリ菌とは限りません。所見や貧血などから、自己免疫性胃炎といった別の原因を調べることもあります。[7]
5.除菌をすれば、その後の胃カメラは不要でしょうか
ピロリ菌の除菌は、胃がんの発生リスクを下げます。ただし、リスクがゼロになるわけではありません。
2025年に発表された8件のランダム化比較試験をまとめた解析では、胃がんなどの胃腫瘍がないピロリ菌感染者において、除菌治療を行ったグループは、行わなかったグループに比べて、胃がんの発生リスクが相対的に約36%低下していました。[9]
これは「除菌をすれば胃がんを完全に防げる」という意味ではありません。また、除菌後のリスクが、一度もピロリ菌に感染したことのない方と同じになるとは限りません。
長年の感染によって生じた萎縮や腸上皮化生などの変化が残っている場合には、除菌後も胃がんが発生することがあります。
そのため、「菌がいなくなったから検査は終了」ではなく、除菌できたことを確認したうえで、胃粘膜の状態に応じた定期的な胃カメラを続けることが大切です。[8]
検査間隔は、萎縮の程度や範囲、これまでの胃がんなどの病変、年齢や全身状態を踏まえて相談します。
「慢性胃炎」と書かれた全員に、同じ頻度の胃カメラを勧めるという意味ではありません。最近すでに胃カメラを受けている方は、結果を確認してから次の検査時期を判断します。
6.健診結果を持ってご相談ください
「慢性胃炎」という病名だけでは、治療や経過観察が必要かどうかは分かりません。
結果票や内視鏡の報告書、ピロリ菌検査の結果、除菌歴、お薬手帳があると、状況を整理しやすくなります。
当院では、ヘリコバクターピロリ学会認定医、消化器内視鏡専門医、消化器病学会専門医である院長が、症状への対応と、粘膜の所見・胃がんリスクの評価を分けて考え、必要な検査や治療をご相談します。
なお、吐血や黒いタール状の便、強いふらつきがある場合は速やかに受診してください。意図しない体重減少や食べ物のつかえ、繰り返す嘔吐がある場合も、「いつもの胃炎」と決めつけず、早めの評価が必要です。
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参考資料
[1] 日本消化器病学会『機能性ディスペプシア診療ガイドライン2021』BQ1-1・BQ1-2
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/fd2021r_.pdf
[2] 日本消化器内視鏡学会「ピロリ菌感染は内視鏡検査でわかりますか?」
https://www.jges.net/citizen/faq/esophagus-stomach_05
[3] 日本消化器内視鏡学会雑誌「『胃炎の京都分類』の内視鏡所見―スクリーニング内視鏡における活用を含めて―」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/59/4/59_458/_html/-char/ja
[4] 胃と腸「稜線状発赤」2017
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1403200926
[5] 日本人間ドック・予防医療学会「上部消化管内視鏡」
https://www.ningen-dock.jp/inspection_endoscopy/
[6] 日本消化器病学会『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/syoukasei2020_2.pdf
[7] 日本消化器内視鏡学会雑誌「自己免疫性胃炎および合併胃腫瘍の臨床像と内視鏡所見」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/63/8/63_1520/_html/-char/ja
[8] 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/print.html
[9] Ford AC, et al. Eradication Therapy to Prevent Gastric Cancer in Helicobacter pylori-Positive Individuals: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials and Observational Studies. Gastroenterology. 2025;169:261–276.
doi:10.1053/j.gastro.2024.12.033
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39824392/
