1-3 どのようにピロリ菌の感染を疑うのか?

前回胃がんの発生においてピロリ菌の感染の有無が重要であることをお伝えしました。
今回は胃のピロリ菌感染を診断する方法に関して紹介したいと思います。

まず感染診断において最も重要なのは胃カメラの所見です。ピロリ菌が発見されて以降、これまでは萎縮性胃炎というピロリ菌が悪さをして「いそうか、いなさそうか」を胃カメラで判断し、「いそうな」場合は後述する7種類ほどある検査から医師の好みや状況に応じて選択された検査を行います。(ただこの検査が100%正確な方法がなくどれも一長一短があることが、ピロリ菌診療の難しいところです。)
そんな中、胃カメラで見える胃の中の炎症の所見を評価した「京都胃炎の分類」の登場により、ピロリ菌診断や除菌治療に精通した医師は「いそうか、いなさそうか」に加え「いたけどいなくなった」を想定することができます。ピロリ診療に精通した医師が見ればわかるのです。この「京都胃炎の分類」による胃カメラの所見とピロリ菌の検査を組み合わせることで、より正確にピロリ菌感染診断を行えるようになります。


私はこの胃炎のお話をイメージしやすくするために、胃に炎と書いて「胃炎」ですので火事で例えてお話をさせて頂きます。放火犯であるピロリ菌が胃炎を起こします。放火犯は小さくて目に見えません。内視鏡で見るのは、まず火事によって焼け焦げの跡があるのか無いのかを見ています。焼け焦げの跡がある場合、院長は刑事(デカ)となり、現場(胃内)に犯人(ピロリ菌)がまだいるのか(現在の感染)、立ち去ったのか(過去の感染)なのかを推測したうえで、現場(胃内)に犯人(ピロリ菌)がいないかどうかの検査を追加していくのです。


院長は「京都胃炎の分類(第2版)」が出てから、携わった数千件の全ての胃カメラ検査において内視鏡のレポート作成の際に、今いそうか(現感染)か立ち去った後(既感染)かを推測し、検査で答え合わせをするトレーニングを積んできました。「いそうか、いなさそうか」はだいたいのレポートに記載がありますが、京都胃炎の分類を意識した「今いそうか(現感染)、いたけどいなくなくなったか(既感染)」が記載されているレポートを書く医師はまだまだ少ないのです。次回お話するピロリ菌の検査は100%確実な方法がないので、この胃カメラで現感染か既感染かを考えながら検査結果を評価するのが、とても大切なのです。

私は開業の準備のために、見学を兼ねていくつもの検診施設や病院でお手伝いをさせて頂きました。その中で気づいたのは問診票です。問診票でピロリ菌の治療の有無を確認していない施設では、上記のような詳細な評価がされていない事が多い印象でした。
(そのため内視鏡学会ではそれを記載させるJEDというレポートシステムを推奨しています。)

ちなみに保険診療では、「いそうな」胃カメラ所見があって初めて保険を使ってピロリ菌の検査ができます。「いなさそうな」胃カメラ所見の場合は、基本的には保険外診療となり自費での検査となります。

次回はいよいよピロリ菌診療のキモである感染のための検査方法について解説したいと思います。